青く輝く月の下で ~Under the shining B.L.U.E. moon~

創作発表板をメインの拠点にコードギアス二次創作やらオリジナル駄文、日々の雑記などを書き散らしていますの
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冒険者の瞳


関連:はたらくッ、お姉さん!



「ヒッ」
彼女が息を呑む声はあたしの耳にしか届かなかったに違いない。
怒声にかき消され、皿の割れる音にかき消され、テーブルがなぎ倒される音にかき消されて、だ。
あたしは気にしない体を装って目の前の料理を──ヌードルクーゲルを口に運ぶ。
『ごめんね』
心の中で謝るけど、それはウソだ。
酒場の中はまるで嵐にあったように荒れ狂っている。キッカケはささいな口論だったはず。
ほんの少しの時間でその口論はケンカになり、ケンカは大乱闘へと変わって行ったのよ。
「イヤッ……怖い……!」
怯える彼女にあたしは──。
あたしは──。
そしてヒュンって音がして、何かが飛んできた。



この世にはいくつかの約束事があるわ。当然よね?
一つ、人に迷惑をかけない。
一つ、人の嫌がることをしない。
一つ、人生は明るく、楽しく、可愛らしくいこう!
な、もんだから。
「ねぇ~、お仕事しましょうよぉン」
「イヤです」
上司の変態チックなオカマ言葉になんて聞く耳もたないあたしなのDA☆
「うぅン、いけずねェ。こんなにお願いしてもダメなのン?」
「あたし、プライベートとお仕事はキッチリわける主義なんだもの。ギルド長も知ってるでしょ?」
「あぁン! だ~か~ら~、そこを曲げてなんとかお願いって言ってるじゃないのン!!」
あぁ……その腰をくねらせてハンカチの端を咥えるのを止めてほしい。キーって歯軋りを立てながら身悶えするのはなおのこと止めていただきたい。「どうして?」あたしのガリガリと削られゆく精神的平穏のためによ!
デスクの上に広がる台帳と書類と幾枚かの手形……これをあとちょっとの時間で捌かないとならないってのにこのギルド長ときたら! 上司が部下の仕事の邪魔してどうすんのよ!
でも、あたしのそんな切実なるお願いは神様と──なによりもこのギルド長には届いていない模様なのだ。
やれやれ。
これで昔は高名な冒険者だったっていうから時間って残酷よね。信じられる? かつて大陸を股に駆けた冒険者「オーガ百匹潰しのG.J.」って何を隠そうこの人なのだ。
あたしはギルド長に向き直った。
「あたし、貴族のお嬢様を接待するようなお店なんて知りませんよ?」
「いーのよォ! それでいーのよン!」
うわ、尻を振るな。きもい。
ギルド長は腰を振り振りあたしの元へと駆け寄った。
「先方様はね、庶民の──それも冒険者が集まるようなお店を御所望なのねン? だ・か・ら、あなたが行き着けにしてるようなゴミゴミしてて汚らしい、場末のいかがわしい酒場のようなところがいいのよン」
「……やっぱ断っていい?」
あァン、ダメダメ! と悶えるギルド長は相変わらずきもい。
「あなたしか……もうあなたしか頼れる人はいないのっ! あなたが最後の頼み、あなたが最後の希望なのよォ!!」
だー!! 寄るな、触るな、ツバ飛ばすな、きもい!
このきもさから逃れられるならいっそ……あたしは覚悟を決めた。
「……時間分の残業代に特別手当。かかった供応費は別個請求可。それでOK?」
「うぐぅ……。相変わらずあなたってしっかりしてるわねぇ。ま、まぁそれくらいなら、なんとかオッケーよン」
おぉ?! 銭勘定にがめついギルド長にしてはあっさりと呑んだものね~。それくらい困っていたってことなのかな? ま、やるとするならキッチリとするのが社会人の務め!
「そんじゃま~オッケってことで。引き受けるからにはキッチリ仕事はしますから安心してくださいよ。で、」
「で?」
近いよ。顔近づけんな。きもい。
「特別なお手当ての“額”について……オ・ハ・ナ・シ、しましょうか?」
あたしはこの冒険者ギルド最大の看板と各所で絶賛されている(はずの)笑顔できもい顔を撃退するのだった!


ギルド長のお願いって言っても、それは別に難しいお話じゃなかったのね。
冒険者の英雄譚に憧れる──自由な世界に興味津々の貴族のお嬢様をエスコートして街を歩いてほしいって依頼だったのよ。
聞けばけっこうなお家柄のお嬢様って話じゃない? そりゃそこらへんの有象無象の冒険者には軽々に頼めないお仕事よね。
そこであたしにお鉢が回ってきたってワ・ケ。
街のあちこちに詳しく、物腰柔らかく、荒くれ者すら魅了する美貌! なによりも信頼篤い冒険者ギルドの看板娘(←ここ重要)という身分の確かさ!! ま、ギルド長があたしを頼るってのも分かる話よ。
プランとしては、適当に五番街(この辺は下宿から職人の工房、商店、宿屋、飲食店が立ち並ぶ、正に冒険者たちの為の通りなのだ!)をブラブラすること。
そうして最後に冒険者が集まるような場末の酒場で飲み食いしておしまいってのがギルド長の立てた観光計画なのね。
お嬢様のたってのお願いってことで、随行はあたしだけ。護衛はいっさい付けずに歩いて回るってことなんですって。
まぁそこらへんはお貴族様のすることだから、隠密に長けたボディガードを雇って密かに付いてこさせているんでしょうけど……まったくお貴族様の道楽にも困ったものよね。
「ねぇねぇ、あれは! あれはなんなのかしら!!」
お嬢ちゃまは跳ね回るようにあっちこっちと走り回っているわ。あのちっこいボディのどこにあんな元気が入っているのかしら。ホント若さって暴力よ。適当に相槌を打ちながらあたしは、
「それは魔化屋。適当な品物に魔法の力を込めてくれるお店なのよ~」
「あぁそっちは彫金師のお店ね。もっともお貴族様御用達のブランドとはちょっと違う個人経営のお店だけど」
「ここは見ての通りの武具屋ね。売るだけじゃなくて、持ち込まれた武具の修繕や手直しも手掛けているわ」
「そこはお嬢様にはちょっと早過ぎるかしら。大人になるまでお預けヨ(はぁと」
とガイドに徹していたの。あら、あたしってば冒険者ギルドを退職しても、これで食べていけるかも!
「そうなのかしら。ねぇあなた? どうしてあのお店はわたくしには早いのかしら?」
「どうしてっていうか……あのお店は大人の殿方が大人の奥方に濃厚なサービスをするところだから仕方ないの。お嬢様も大人な奥方になれば入っていってもよくってよ」
「あらそう。……っておかしいわ! 大人の奥方って人様の奥方になる女性はもう大人に決まってるじゃない!」
あらあら、あたくしってばオホホのホ。お嬢ちゃまに言われてしまいましてよ。
それにしても好奇心旺盛なお嬢ちゃまだこと。一瞬たりとも目が離せませんわ。
辺りはそろそろ夕暮れも近い時分。行き交う人の数もずいぶん多くて、ちょっと危なっかしい感じ。あたしは「あっ、なにこれちっちゃい鎧みたいなの!」と再び走り出そうとしたお嬢ちゃまの手を取った。
「お嬢様? エスコートいたしますのでお手をどうぞ」
「あら、手を取ってから言うのはマナー違反なのかしら」
ちょっと笑ってお嬢ちゃまはあたしの手を握り返したのね。
意外とちっちゃくて可愛らしいお手々。
「…………」
あ、なんかとてつもなくヤバイものが目覚めちゃいそうな予感。
ぶんぶんと頭を振って煩悩を追い払うってあたし、彼女が興味を示した“ちっちゃい鎧”に向き直った。
「これは……ね、パイコってドワーフが経営してる金属製品のお店なの。冒険者御用達のいわゆる“職人の店”ってやつね」
「職人の店?! どんなものが売っているのかしら!」
「どんなものって……普通?」
「普通じゃわかんないかしら。それって冒険者にとっての普通って代物なのでしょう?」
そりゃそうだ。あたしちょっと反省。
この子ってばわりと頭いいんじゃないかしら。お貴族様とおバカ様を=で結んでいたこれまでのあたしにパンチをかましたい気分だわ。可愛くって、物を考える頭を持っていて、生まれも良い。しかも若い。あぁ、この世ってなんて不公平なんでしょ!
「そうねぇ……簡単なツールからそれなりの機械仕掛けを施した物まで、金属加工品全般ってとこかしら。魔法に関わりない道具類なら大抵の物は作るって話だし」
そういえばパイコにもしばらくあってないな。だいぶ前に野生のヒッポグリフを捕獲するための檻を特注しに来た時以来かしら。あの時は久しぶりにうちのエース級冒険者勢ぞろいの仕事だったのよね~。
「この辺じゃ銅に鉄に銀、ミスリルと金属だったらなんでも加工できる“鉄拳のパイコ”って言えば、知らなきゃもぐりね」
「鉄拳? 格闘家なドワーフさんなのかしら?」
あたしはうぅんと頭を振った。
「槌がなくても、拳でだって焼いた鉄を叩いて鍛える。そんな筋金入りの職人だからついたあだ名が“鉄拳”なのよ。入ってみる?」
もちろん、とお嬢ちゃまはいっぱいの笑顔であたしを見上げるのだった。碧色の瞳がおっきくランランと輝いている。あどけなさの中に光る蠱惑的な仕草! もぉ、本格的に新しい性癖に目覚めちゃいそうでヤバイわぁ。
お嬢ちゃまに先立って店に向かうあたし。店先には鉄枠を嵌めた看板がぶら下がってるばかりで、商売っ気なんて何処に置いてきたの? って感じのこのお店。
看板だけじゃない。パイコの店には洒落た物なんて何一つ置いてなんてないの。だけどそれは無骨一辺倒の美しさが何もない店って意味じゃあ断じてない。絶対ない。
知ってるかな? 実用的な物が持つ機能的な美しさって。この店にはそれが満ち溢れているのよね。だから洒落た内装がないんじゃない。ないのではなくて、必要ないのだこの店には。
扉は押すだけでスッと開く。引っかかることなんてまるでない。もちろんこれだってパイコ自身の手によるものだ。店に入るとそこかしこに棚があって、所狭しと品物が並べられている。
「だけど雑然とした感じはしないかしら。まるでコレクションが展示されてる美術館みたい……」
そのお嬢ちゃまの感想は的を射ている。あまり知られていないけど、パイコはこの街の王立美術館の外部アドバイザーもしているのだ。あそこの陳列の一部は彼が手がけている。
「なんだあんたか」
頑固そうな声が棚と棚の間から飛んできた。
「やっほ。元気してる?」
特別製のランプに照らされた店内は随分と明るい。なんでもランプの内側に特別な加工がしてあって、ランプの明かりを倍にして照らし出すって話。言っておくけど魔法の品物じゃないわよ? 魔法の力に頼らないでこんな凄い物を作り出すっていうんだから驚きよね。
店主のドワーフ──パイコはドワーフにしては変わった人だわ。そう言うと彼は「そうでもないだろう」と面倒くさそうに言うけど、間違いなく変わり者のドワーフよ。それはもう絶対に絶対なのよ。
まず、ドワーフは普通髭を刈らない。彼は髭を短めに(それでも人間からすれば充分長い顎下7セヌトくらい)に刈る。
んで、ドワーフは普通お酒を呑む。水を飲むようにお酒を呑む。彼は呑まない。「下戸のドワーフ」って言えば有り得ない事を意味する故事だけど、ここにその“有り得ないこと”が有り得ちゃうのだ。
あと、ドワーフは普通成人で120セヌトくらいの背丈よね? 彼は150セヌトという超長身のドワーフなのよ!
「しばらくぶりじゃったが、今日はなんの用だ」
「ん~、冷やかしかな~」
「そうか」
ぶっきらぼうな物言いは良くも悪くもドワーフ族の特徴ね。でも、ドワーフ族って情が深いの。一度でも認めた相手なら、ドワーフ族は生涯の友として決して裏切らない義理堅さを持ってるのよ。
「こちらの方が店主さんかしら?」
「そうよぉ。いわゆるツンデレ店主ってやつね」
子どもに何を教えとるんじゃ……とぶつくさ言いながら、パイコはあたしとお嬢ちゃまに奥のテーブルと椅子を指し示した。
「茶でも飲んでいけ」
「あら、いいの?」
「あんたが遠慮するような玉か。ちょうど仕事がひと段落したところだ。そっちの娘も一緒に飲んでけ」
お嬢ちゃまがあたしを見上げる。ドワーフを見たことなかったのかしら? ちょっと不安そうに『いいの?』と訴えてる。
「じゃあ御相伴にあずかりましょっか」
務めて明るくのたもうて、あたしは軽くお嬢ちゃまにウインク☆
それで安心したのかお嬢ちゃまはうんと頷き、あたしの先を行ってテーブルに着席したのでした。


「じゃあ店主さんはあの魔力剣士アーヴィンをご存知ですの?」
「あぁ、いつだったかあいつがうちに“キュプロスの金歯”を持ち込んできてな。あの時はとんでもない目におうたわい」
「それってそれって、あの【牙の寺院】が絡んだ“渇きの女王事件”の発端となった出来事ですわよね! わたくし、その事件の絵物語を持ってますわ! “ベラスコ邸事件”の絵物語の本だって持っていますのよ!」
「ほぉ、あいつの関わった事件が絵物語になぁ。それはまた知らなんだが……」
これまた意外。あたしは感心してしまってたの。パイコってば子供の相手が上手いじゃない!
興味を引く話題を選んで話して、話ばかりせずに相手の語りにも耳を向ける。相手が退屈しないように盛り上げ時もちゃあんと計って退屈させる隙なんてほんの少しも与えない。
話は途中をちょっと端折って、冒険者アーヴィンのパーティーが事件の真相に辿りついたところに入ったわ。
真犯人と半人前ヒーローの大立ち回り、そして暴かれる悲しい過去! お嬢ちゃんの視線はもうパイコに釘付け。むぅ……ちょっと嫉妬しちゃうかも。
「でもそれっておかしいわ。失われた思い出がどんなに美しかったとしても、そんなことを繰り返していては幸せなんかじゃないでしょうに」
「もっともじゃ。まぁ、わしは人間のことはようわからんから何とも言えん。だがな」
「ん?」
「幸せなんて人それぞれってことじゃ。娘さんにゃまだ分からんかもしれんがな……」
苦笑しながらパイコはティーカップを傾けたの。出されたお茶はけっこういいもの使ってるみたい。
『お酒じゃなくてお茶をすするドワーフ』
なんともシュールな情景にあたし、思わず笑っちゃいそうになる。
「なんだ? 気味悪い笑い方をしおって」
気味悪くなんかないもん! おのれー、金貨百万枚に値すると言われたあたしの笑顔を気味悪いと申したか!
ま、いっか。
イイ女はどうでもいいことに一々怒ったりはしないのだ。
「それにしてもあのアーヴィンが絵物語にねぇ。ギルドの窓口で必死に賃金交渉してたあの子が出世したものよね」
「貴女もアーヴィン・イヴァンをご存知なの?」
ぐわっと身を乗り出さんばかりに食いつくお嬢ちゃま。可愛い──。この子ってば挙動の一つ一つが殺人的に可愛いの。もう抱きしめちゃってギューしちゃいたいくらいに。
肘でコツンとつっつくのはパイコ。
あん。わかってるわよ、手なんか出さないってば。
「そうね~。あたしってばギルドのお仕事してるじゃない? だからこの街で仕事したことのある冒険者なら、大抵の子のことは知ってるわよぉ」
た・と・え・ばってちょっと勿体つけてみると、お嬢ちゃまはますます食い入るようにあたしの事にもう夢中。
お嬢ちゃまの──うぅん、彼女の瞳ってばまるで……、
「料理家で美食家としても知られた僧侶“舌の聖人”ルゥエリンとか、千里眼“狼に育てられし者”アレスィ。“木槌の騎士”モールスロットなんてのもうちのギルドに所属してたのよ」
「みんな高名な冒険者ばかりかしら!」
まるで、宝物を目の前にした冒険者のよう、かも。
「モールスロットとは懐かしい名前じゃの。そうそう、あいつの二つ名の“木槌の騎士”じゃがの、あやつの得物の木槌はわしがあつらえたものでな」
「えぇ~?! こちらは金属を扱うお店ですわよね? なのになんで木槌を?!」
「うむ、それがな……」
ハァとあたし、悟られないようにため息をつく。
はっきりと言って、この子って良い子よね。お貴族様にしておくのがもったいないくらいの良い子よ。それがあたしには憂鬱なのだ。
実はあたしに任せられた“仕事”は彼女を接待することだけじゃない。
ギルド長は言った。
「い~い? 分かってるとは思うけどォ、あなたに求められるのは、お嬢様をただ街を案内して回ることじゃないわァ」
「まわりくどい。三行でおk」
「貴族のお嬢様なんですから。
 最終的に冒険者への憧れを。
 やんわりと容赦なくデストロイ。で4649」
笑顔を絶やさず、胸の中でハァとため息もう一つ。
あたしは彼女の抱いた夢を壊さなければならないんだ。こんなにキラキラした目で冒険の話に聞き惚れる女の子の夢を。
「──! て、鉄よりも鋼鉄よりも硬い木があるなんて!」
「実はな、モールスロット最初の冒険はその木──ゴフェルの木を見つけることだったんじゃよ」
つい、視線を逸らしてしまったあたし。冒険者と同じ顔をしてる彼女をあたしは見ていられなかったの。
──鬱だ。

ギルド長は言ったのだ。
「最後は適当な酒場に連れ込んで飲み食いでもすればいいと思うわよォ。今の時期なら余所から来た人足の類も多いでしょうし──」
「タチの悪いヤツがお嬢様に絡んできたら言うこと無しってわけ?」
「そこまでは言わないけどォ? でも、ケンカ騒ぎなんか起きたらめっけものよねェン」
「野卑な下々の者たちのバカ騒ぎにお嬢様は幻滅! まさか憧れの自由な街がこんなに柄の悪いものだなんてッ! ってビックリさ! もう金輪際冒険者に憧れるなんてことはやめるよ! って結末でオーライッ……みたいな感じ?」
クルっと回ってパチンと音立ててターン。キュッと足先立ててビシッとギルド長はポーズをキメッ。うん、きもい。
「やっぱりあなたって最高よ! その筋立てで4946ッ!」


パイコの店であたしたちはだいぶ長い時間を過ごしてしまった。入ったのがまだまだ明るい夕暮れ前だったってのに、出てみたらまぁ! 辺りはすでに暗く、空には夜の帳が降りていたときたもんだ!
「パイコ、ありがとね。次に来る時はなんか持ってくるわ」
「ふん、期待せんで待っとるわ。人間は忘れやすいからな」
少し不本意そうに膨れている彼女の視線は、あたしの顔とパイコの顔をいったりきたりしてる。
「まだまだお話、聞いていたかったのに……」
ボソっとつぶやく彼女にパイコは優しく──彼ってこんな顔も出来たの?!──優しく微笑んだ。
「なに、これが今生の別れというわけじゃあるまい。仕事の邪魔にならんように来るのならわしはかまわん。年寄りの昔語りが気に入ったならまた来るがいい」
わお。なにこれ? 知り合ってまだ間もないってのにデレ発現? ツンデレじゃないドワーフなんて、あたし初めて見たんだけど。
驚いてるあたしにパイコはニヤリと笑って「わしも可愛気のある娘なら嫌いじゃない。お前さんのような可愛気のない人間相手とは違うのさ」なんて言ったのだ!
「な、なにおー!? か、可愛気がないと言ったかぁ! 愛を振りまく微笑みの天使たるこのあたしに向かって可愛気がないと言ったかぁっ!!」
クスクスクス。
笑い声は口元を押さえていても隙間からこぼれてしまったようね。
あたしがこっそりグッと親指と立てると意外。パイコも親指を立てて返してくれた。
「……もう、貴女っていつもこんなに可笑しいのかしら? わたくし、今日だけでもう1年分くらい笑ったり驚いたりしてる気がするわ」
お嬢ちゃまは楽しそうに……本当に愉快そうに笑っていて、
「…………」
あたしの胸の奥に、常にない痛みを感じさせたのだった。
くそう……ろくでもない仕事、引き受けちゃったなぁ。
それでも一度引き受けたからにはちゃんと遂行しなけりゃならぬ。それは冒険者たるのポリシーだ。
「さてと……」
あたし、憂鬱さを悟られないように務めて明るく切り出す。
「そろそろ夕飯時だし、冒険者御用達のお店でかる~く食事としゃれこみますかっ」
「さんせいっ!」
元気良く返事する彼女に、反比例してあたしは「うん」と小さく頷くのが精一杯だった。
そうしてあたしたちはパイコの店を後にした。
この辺は夜になっても人通りが多い。いや、むしろ夜になってからが本番って言ってもいいんだ。
ほとんどの商店は日暮れ前後から店を閉じていくけど、屋台や酒場はここからが本番。大抵の冒険者向けの宿屋もまだまだ開いている。この辺の店が閉め始めるのは街のゲートが閉鎖される9つ刻くらいからかな。
あたしが行くつもりなのは五番街の奥、あまり治安のよろしくない辺りで日付が変わるころまでやっている酒場。
この街は城郭都市として発展してきた街で、一番街や二番街っていったそれぞれの街区は市壁にとって分けられているのね。
すこし歪な形をした円状の外城壁に囲まれていてるここは、中心部にお城があって、その周りを貴族街と公的な施設が占めて、それを内城壁が囲んでいるの。あたしたちの生活する市街区はその内城壁と外城壁の内側にあるってわけ。
外城壁の正門──正面ゲートのある一番街から時計回りに二番街、三番街と作られていって、いまでは九番街まであるのね。五番街は街の北東側に位置しているわ。
五番街はもともと北方の亜人族との戦いの為に造成された砦があった場所に作られた街区で、強固な防壁と砦に駐留する兵士のための歓楽街が元になってるわけ。
一日26時間即応可能な街だったころの名残なのか、いまでも遅くまで……もしくは朝から朝までやってる店が多い場所なんだ。
それだけに、ごろつき・くだまき・やくたいのないのが他の街区よりも目につくってわけよ。
『ギルド長が言ってた“ちょうどいい店”ってこの辺だったかな』
顔を動かさずに目だけで辺りを見回す。この辺の技術はタウンクエストでは必須の技術よ。もちろんあたしだってそれくらい出来ちゃうわ。
『うーん、茸とジョッキの看板だって言ってたんだけどな……あった』
場所のあたりはどうやら間違っていなかったみたい。「あそこにお店があったわ。あそこにしましょ」ちょっと歩き疲れていたらしい彼女は「えぇ!」とそれでも元気に返事した。
彼女はあたしの手をしっかりと握っている。
深く考えないようにして、あたしは店に向かった。
引いた扉は立て付けが悪かったの。開けるには力を込めて、ガガッと音を立てながらじゃなきゃ開かなかったもの。
そうして入った店は意外に広くて明るかったわ。今時夜の明かりに松明を使う店はないけど、大抵安価なカンテラをいくつか吊るすだけだから暗いのよね。
この店は多分《光明》の魔法を封じたアミュレットか何かを灯りにしてるのね──やっぱりそうだ、天井に吊るしてあるのは魔法ギルド謹製の《灯火のアミュレット》だわ。
そう高い物でもないけど安い物でもないわよね。けっこう儲かってるのかしら? そんなことを考えながらあたしたちは奥の壁際のテーブルについた。
「とりあえず果物の絞り汁を二杯。あと簡単な料理を三つお願いしようかな。おすすめはある?」
わりとすぐに来た給仕のおばちゃんに注文を伝えると「今日はヌードルクーゲルとホーリッシェを準備してるからそれはどうだい?」よし、あたしの好物キター!
「じゃそれを。すぐに出せるものはある?」
「腸詰の盛り合わせなら飲み物と一緒に出せるけど」
そういうおばちゃんに頷いてみせて注文は完了。あたしは彼女と目を合わせた。
「今日はどうだったかしら?」
「もちろんとても楽しかったわ!」
彼女の返事は少しのためらいもなかったの。
「知らなかったことを知ることがこんなにも素晴らしいことだなんてちっとも知らなかった……わたくし、こんなに楽しかったことなんて初めて」
でもそれは……、そう言おうとして黙るあたし。彼女があたしの言葉を遮ったからだ。
「でもわかってるの。それは今まで知らなかった色んなものを目にして舞い上がってるだけだって。わたくし一人ではしゃいでいるだけなんだって」
「いいじゃない、舞い上がっても。楽しかったり嬉しかったりしてはしゃぐのは自然なことだわ」
「いいのかな?」
「誰が文句言うっていうの?」
「そっか……」
ほっとしたように柔らかく微笑んで、彼女は膝の上に並べてる手を見ているみたい。その表情はさっきまでの騒がしい少女の顔とは違って、どこか満ち足りた大人のような顔だったわ。
「貴女方のように……」
ぽつりと呟こうとしたとき、コップと皿が遮るようにしてあたしたちの前に並べられたのはグッドタイミングと言ってもいいんじゃないかしら。
もしそれを最後まで聞いてしまったとしたらあたしは……。
「果物の絞り汁ニ杯と腸詰の盛り合わせね。あとはもうしばらくかかると思うから、なにか注文があったらまた呼んでちょうだい」
盛り付けられた腸詰はけっこう多い。オードブルにはまぁまぁな感じ? 飲みながら次の料理を待つにはちょうどいい量ね。
乾杯といきましょうかとあたしは言い、彼女も笑顔でそれに応えた。
木彫りのコップを手にとって、あたしたちは杯をかち合わせた。

ガチャン!

乾杯の音?
そんなわけがない!! 木をくりぬいて作ったコップがガチャンなんて音を立てるわけないじゃない。
振り返ると腸詰が床に飛び散り、ソースが壁に赤い飛沫で模様を作っていたのだ! そして仁王立ちの男と男がにらみ合っている。
「バンホールの男が臆病者だと言いやがったな?」
「ドマの男に比べて臆病なのは間違いネェだろうが」
辺り構わぬ大声量。
「やれやれ……壁際の隅っこの席にして正解だったわね」
「ね、ねぇ……あの人たちは?」
彼女の語尾は微かに震えている。
「さぁ、ね。市民ってより冒険者稼業の人に見えるわね。……多分どちらも剣だか斧だか担いでいるタイプかな」
「戦士ってことかしら……」
戦士と言ってもそれなりに分類ってものがあるわ。兵士や騎士がそうであるようにね。
軽戦士や重戦士なんて大雑把な分け方もあるし、徒手格闘を専らとする特殊なのもいる。戦士と言っても千差万別なわけよ。
この二人が冒険者稼業の戦士だって見たのには理由がある。
皮のベストに短剣を腰にぶらさげた簡単ながらトラブルには即応できる格好。冒険者稼業ってのは仕事に時と場所を選ばないものだから、完全武装なんてことはないにしろ、どんな時でも仕事に入れる格好はしているものなのだ。
後は体格やら喋り方、細かい仕草でなんとなく分かるもの……としか言い様がないかな~。
「だれにも、臆病者だなんて言わせねェぞ……」
「バンホールの田舎者は遅くならないうちに布団の中に帰るんだな」
男たちの口調は段々と激しくなっていく。周りの連中もそれをますます煽る。あたしは大きくため息をついた。
『ギルド長の思った通りになっちゃうみたいねぇ』
給仕のおばちゃんは割れた皿と床の腸詰をさっと拾い集めるとすぐに厨房に戻っていった。そりゃそうよ、君子じゃなくたって危うきには近寄らないものだもん。
誰も止めないかわりに、周りの雰囲気はいよいよ闘技場のそれへと変わっていったわ。
そして……、

 ガ ツ ン !

木槌で杭を打ちつけたような音がして、オトコの祭が始まったってわけよ。
先手を取ったのは臆病者と罵られたバンホール出身らしい男の方だったわ。まだ若い……青年っていった感じ。
殴られた方は……けっこうベテランっぽい偉丈夫ね。青年戦士の一発にニヤリと笑っている辺り……、
「このケンカ、すぐ終わるかも」
だけど甘かった。
そんな風に思ったのが甘かったことに、あたしはすぐに気が付くことになるのよね~。
最初はあたしの予想通り、最初の一発だけは譲ったベテラン戦士が青年戦士をぽこぽこ殴っていたのよ。そりゃもうタコ殴りってやつ!
でも、喧騒と怒号の中で誰かがやっちゃったの!
「《お前の足は風、その腕は雷、疾くほとばしれ……》」
ハッとする間もなく誰かが唱えたその呪文は完成して、青年の身体に《力》を与えたのね。
その呪文は《加速─ヘイスト》の魔法。対象に特別な素早さと敏捷性を与える補助魔法の一つ。
魔法の援護を受けたらそりゃ形勢は逆転するものよ。それまでとは見違えるほどに素早く動けるようになった青年戦士はベテランの動きを翻弄して一撃、ニ撃、三撃とクリーンヒットを喰らわせていくの!
「誰だよ魔法かけたやつぁ!」
ベテランの怒鳴り声に誰かが「オレは若いのに銀貨10枚賭けてンだよ!」と怒鳴り返す。あぁやっぱりと嘆息する。もう賭けをはじめてんのか、この呑んだくれどもは。
「え? 賭け? 目の前で諍いをしているのになんでこの方達は止めないんですの?!」
「う~ん。そういうものだから……かな?」
「で、でも!」
ズドン! 大きな音がして近くのテーブルが引っくり返り「ヒッ!」と彼女が悲鳴をあげる。
「どうして? ここは食事をするところでしょう? なんで喧嘩なんてしてますの? それに賭け事だなんて!」
「冒険者なんて言っても、殆どはならず者みたいな連中ばかりなのよね。火事はともかく喧嘩騒ぎなんてみんなの娯楽みたいなものよ」
「そんな!」
あたしはちょっと冷たく感じられるように彼女に言ったわ。
おぉ? 今度は別の誰かが《木盾─シールド》の魔法でベテランの方を援護したみたい。殴りつけた青年戦士が手をおさえて呻いている。形勢逆転か?
そしたら今度は別の魔法使いが《筋力強化─ストレングス》の魔法を使う。次はまた別の輩が《残像─ブラー》を相手に、そしたら、そしたら……。
『ここは補助魔法の見世物市か』
ぼやいてあたしはコップの絞り汁をすする。ズビっと音がしてしまった。わお、あたしってばマナー違反。
でも、彼女ときたらそんな些細なことにはまるで注意がいかないようだ。
──本気で、怯えている。
チクと痛む胸を押さえて、あたしは出てこない料理を放ってもう店を出ようかと入り口の方を向いた。ダメか。店の外に出るには二人が殴りあいをしてるそこを通り抜けないと行き着けそうにない。
どうすっかな~とあたしもちょっと困っちゃった。そこへすかさず皿を持って来るおばちゃん。わお、料理のこと忘れてなかったんだね。
「あんたたちも困った時に来ちゃったものねぇ。ここまで激しい喧嘩は久しぶりだよ」
初めてだよ、じゃなくて久しぶりって辺りにたくましさを感じちゃうわぁ。
出されたヌードルクーゲルにあたしはフォークを向けるけど……彼女にはさすがに料理に口をつける余裕はないか。
あたしはその前にヌードルクーゲルを口に運んだ。ケンカなんてどこ吹く風。そんなものここでは起きていないかのように、悠然と優雅に食事をして見せるのだ。
そうこうしてるうちにケンカは第三段階に移ってった模様。
青年戦士に《加速─ヘイスト》をかけた魔法使いをベテランに賭けてた男が殴りつけたみたい。そしたら青年戦士に賭けてた別のがそいつに殴りかかり……おおっとこれまた別のおっさんがイスで魔法使いに殴りかかってンじゃん!
乱闘よ、血沸き肉躍る大乱闘よ! 皿は宙を舞い、テーブルは引っくり返り、そこらじゅうにエールが金色の飛沫を飛ばす!
さすがにあたしもイライラしてきた。
くそう、なに考えてんのよ! よく見なさいよね、女子供だって店の中にいんのよ?
だけど頭に血が上った連中にそんなものは見えていないに違いない。
洒落になんないわね。隅っこまで騒ぎが届いていないうちに強行突破で逃げるっきゃない、かな?
それにしてもとあたしは思った。
冒険者なんて殆どはならず者に毛が生えた程度の連中だってのは確かだ。さっき言った言葉にウソはない。
だけどさ、だけどさ!
このヌードルクーゲルってばけっこう美味しいのよ? こんな美味しいヌードルクーゲル出すお店で、食べるもん食べないでケンカ騒ぎにうつつを抜かすなんてあり?
彼女はもう両手で顔を覆ってべそをかいてる。
冒険者ってステキなのねと、自由な暮らしってステキなのねと目を輝かせていた彼女が目にした現実がこれだ。
もちろんそれはあたしが見せようと思って見せたものよ。あたしに人のことは言えない。だけど──
この子はあんたたちに憧れてたのよ?!
あんたたちだって、いっぱしの冒険者だろうに!
「イヤッ……怖い……!」
怯える彼女にあたしは──
あたしは──
そしてヒュンって音がして、何かが飛んできた。それはあたしたちのテーブルの上に直撃して、腸詰の皿やらヌードルクーゲルの皿やらを跳ね飛ばしてそこらじゅうに撒き散らし──
「────!!」

彼女を、

泣かせた。




A氏(仮名:バンホール出身)は暫く不安気にきょろきょろとしていたが、やがて覚悟を決めたように話し始めてくれた。
A「その店に入って小1時間くらいだったでしょうか……隣り合った男と口論に、なりましてね」
A「それは突然起きました……臆病者と言われるとなんでかカッとなってしまうんですよ」「いえ、なんというか……突然というか、こう……後になってみると、やっちまった……て感じで」

同時刻、別室にてB氏(仮名)も話を始めていた。
B「気付いた時には始まっちゃってたんですよね。えぇ、喧嘩です。若いのとベテランっぽい男が始めましてね。俺らも調子にのって煽るわ、賭けを始めるわ。中には補助魔法をかけるバカもいて……」
B「そうです。まぁあの辺の酒場では割とよくある話ですから……そりゃあんなに激しいのは滅多にありませんがね」
B「もちろん、あんな目に合うことだって滅多に……いや滅多にだってありませんや。でも“アレ”は確かにそこにいたんですよ……」

これは五番街マリーフィア通り34番地で起きた乱闘事件に関する調書から抜粋したものである。
この事件は三日前の夜にとある酒場において起きた。これは事件に居合わせた者の証言である。
乱闘が収まった直後に通報によって急行した衛兵たちはその店内の惨状(テーブルは引っくり返り、皿や料理が散らばるという乱闘に付き物の様子であったそうである)よりも一様に顔面蒼白で立ち尽くす男たちの様子に只ならぬ物を感じたという。

A「…………ハァ(ため息)」「あれは……声ですね。まず、声でした」「殴り合いに夢中で最初は気付かなかったんだけど」

B「聞こえてきたんですよ……声がね」「そう……腹の底にズンと響くような声ですよ」「あまり良い言葉ではなかったですね。野卑な感じで」

A「てめェらいいかげんにしやがれ!」「そんな雄叫びでした」「思わず手を止めてしまいました。……そんで見たんですよ」

B「私の席からだと、ほんの……ここからそこくらいの距離でしょうか(とB氏は5メルト程先を示した)」

A「最初はね、我が目を疑いましたよ……」

B「気が付いたらね、浮き上がっていたんですよ。自分が」 「催眠術とか超スピードとか、そんなものじゃない……もっと恐ろしい何かを感じました」

A「身の危険を感じました“アレ”はやばいと」

B「そこでようやくわたしも“アレ”に気が付いたんです」「浮いていたんじゃないんです。持ち上げられていたんです……」

A「そう、僕はアレの存在に遅まきながら気が付きました」「もちろん、気が付いたからってもうどうしようもないのですがね」

B「“アレ”は最初に喧嘩の当事者だったベテランっぽい戦士にわたしを投げつけたんです」「比喩でなしに“投げつけた”んです。ボールをぶつけるようにね」

A「それが宣戦布告でした……いや、違うな。違います、訂正します。あれは……絶対的強者によるお仕置き宣言だったんです」


彼ら二人と事情聴取を受けたその他数名は皆揃ってこう締め括った。

「あんな恐ろしい体験、もちろん生まれて初めての経験でしたよ」

と。


ギルド長はテーブルに肘をついて不満足そうに指でコツコツやっていたの。
あれから一週間。あたしは今日も冒険者ギルドの看板娘として、受付に事務に経理にと走り回っているわ。
「ねぇ~」
呼びつけるギルド長を華麗にスルーすると、あたしは受付に【午前中の受付は終了しました】の札を引っ掛けて、残りの手形を処理すべくカウンター裏の事務机へと向かう。
なになに? 銀貨10万枚分の手形とはまたけっこうな額じゃない。なになに……これは例の新興宗教関連の取引か。大丈夫かな、この手形。
「ねえってば!」
──!
おッどろいたなぁ。いつのまにかすぐそばまで来てたギルド長が顔をめっちゃ直近に付けて怒ってる。
「ギルド長、きもいから顔を近づけんのはやめてネ☆」
「上司に向かってきもいはないんじゃないのっ、きもいは!」
あたしは冷静に「だって」と反論した。
「きもい人にきもいからきもいと言って何が悪いんですか? きもいって自覚なかったとしたらかえってきもいんだよってきもい人には伝えなきゃ! それが優しさってもんだから心を鬼にしてきもいギルド長にその顔はきもいからあなたはきもいって言ってるんですよ? わかったら自分はきもいって自覚してください。とりあえずそのきもい顔をどけてくださいギルド長」
あ、泣いた。ハンカチの端を噛みしめてキーって言いながら泣いてる。かわいそうだったかな? まぁきもいのは変わらないんだけど。
「重軽傷者14名。うち二人は脚やら腕やらぽっきり折って全治ニヶ月、ね」
「~♪」
あたしは聞いてない振りをして手形に向かう。今日も仕事は大変なんだもの。第一、
「一週間も前のことなんて、もう覚えてないですわ~。あたしは過去にこだわらない女なものですから」
「酒場での酔っ払い冒険者たちの乱闘を“止めた”ってことで無罪放免になってるけど、勘違いしないでちょうだいね。い・ち・お・う、なんですから」
無視。スルー。関知しな~い。
「一応……プラン通りには動いてくれたことだし、お嬢様には傷一つ付けないで連れて帰ってくれたわよね。向こう様からのクレームもなかったンだからいいけどォ……」
ここであたし、クルっとギルド長に振り向いた。
「けどって?」
ギルド長、呆れたようにため息ついた。
「お嬢さまから直々に言伝を預かったのよ。貴女にね──ありがとう、わたくしのヒーローさま──ですって」
「う~ん。ヒーローじゃなくってヒロインなんだけどな」
「ヒロイン? 貴女はそんな玉じゃないでしょ。屈強なマッチョたちを一人で素手で千切っては投げ、千切っては投げをして平気でいるヒロインがいてたまるものですか」
「あら? 最近は戦う美少女が流行りなんですのよ?」
「それこそ大笑いよ。貴女ってばもう美“少女”って歳でもないで……ゲフッ」
肘を鳩尾に叩き込み、ギルド長を黙らせるとあたしは再び手形と帳簿に向き直った。
そうか──わたくしのヒーローさま、か。
フフっと笑みが零れ落ちた。
ギルド長のプラン通りに必ずしもカッコイイだけじゃない冒険者の醜態を見せたあたしだけど、彼女は結局どう思っただろう?
ヒーローさまかぁ……もう一度胸の中で繰り返し、あたしは筆を奔らせる。
多分もう、彼女とあたしの人生が重なることはないとは思うんだけど、それでも、ね。
彼女がしてたあの“宝物を見つけた冒険者の瞳”は消えていないだろうかとちょっと気になる。
冒険者に幻滅してないかな? 冒険への憧れを失ってはいないかな?
矛盾するようだけど、あたしはあの子にそうならないで欲しいと思ってる。
そしていつか万に一つ、本当に万に一つの可能性として彼女とあたしの人生が重なったとしたら──

「その時、あたしは変わらず冒険者ギルドの看板娘だとして──あの子はどんな肩書きでいるのかな」

そんなことを考えてはにやけてしまう、あたしなのでした。



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[ 2011/09/25 22:41 ] 未分類 | TB(0) | CM(2)
ファンタジーですよね、世界は。
でも、どことなくハードボイルド^^
ヒロイン、強くてかっこいいなあ。
再登場に期待します(^v^)
[ 2011/09/27 13:14 ] [ 編集 ]
Re: タイトルなし
> ファンタジーですよね、世界は。
学生のころ書いてたお話の世界を流用(?)してます。
ほら、中高生のころってこういう「世界設定」に凝りたい時分じゃないですかw

> でも、どことなくハードボイルド^^
> ヒロイン、強くてかっこいいなあ。
どんな時も、どんな都合があろうとも、最終的に大人は子供を守るもの……と思います。
物理的にも、精神的にも。
でも、そこをきちんと書けてるかというと……書けるかというと……orz
そう言ってもらえると、ちょっと救われた思いです。

> 再登場に期待します(^v^)
また書きますよっ!
[ 2011/09/28 23:04 ] [ 編集 ]
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