青く輝く月の下で ~Under the shining B.L.U.E. moon~

創作発表板をメインの拠点にコードギアス二次創作やらオリジナル駄文、日々の雑記などを書き散らしていますの
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【冬 の 終わりに】part2



【冬 の 終わりに】part2 コードギアス反逆のルルーシュLOSTCOLORSより


前話 part1はこちら




異常気象が叫ばれて久しい2018年。もうじき初夏を迎えようという時期であるのにこの北陸の地は雪が降るだけでなく、吹雪いてさえいた。
さすがに積雪量はそれほどでもないが、そうであっても銀世界と化した山中はナイトメアの行軍には厳しいものがあった。
ゆえにメッケナム中尉の愚痴はその胸の内でますますうず高く積み重なっていくのだ。
見た目いつもの仏頂面だけを貼り付けて、彼は出来るだけ表層に出ない様に苦虫をまとめて噛み潰す。そうしてメッケナム中尉は指揮車コンソールのマイクを手にとって自分の責務を果たさんとしている。
「トレボーより各機へ。これより想定される敵勢力圏内に侵入。フォーメーションはこのまま、以降無線封鎖とする。オーバー」
「ソーズマン1了解」
「ソーズマン2から5了解」
「ビショップ1了解」
「ビショップ2から5了解」
順繰りに展開した各ナイトメア小隊から返信が届く。
ブリタニア帝国正規軍──陸軍のナイトメアフレーム部隊の編成は5機で1小隊となっている。
アサルトライフル装備の前衛担当が3機、バズーカ砲もしくは対戦車ミサイルランチャー装備の後衛担当が2機で合わせて5機という編成が標準となっていて、これに歩兵戦闘車両一台を軸とした機械化歩兵分隊が随伴歩兵として同行する。これが基本戦闘単位とされるものだ。
その小隊を4から5個小隊でまとめ、さらに戦闘指揮車両一台を組み込んだ編成が正式なナイトメアフレーム1個中隊である。
今回の作戦では随伴歩兵は付随していない。季節外れの吹雪という悪天候では歩兵の随伴は危険を伴うからだ。
また、本来バズーカ砲などの重火器を装備する後衛担当の機体も雪山での作戦活動ゆえに、雪崩等の危険性から支援機仕様のロングバレルライフルに変更されている。前衛機のアサルトライフルも共に静音機を装備したタイプの物にだ。
よってこの作戦行動は雪上用機材を装備した準基準兵装のナイトメア部隊と指揮車両だけで決行されている。
今、メッケナム中尉は中隊副官として指揮車に乗り込んでいる。後ろには中隊長のブック大尉が鎮座し、脇には情報将校のマスケラ少尉が、前部には操縦主のデボラ軍曹が、上部には彼らを見下ろす様な位置で機関銃主のバーナビー上等兵が座っていて、狭い車内を一層狭苦しい印象にさせていた。
戦闘指揮車はそのエンジンを小さく震わせ、その履帯が雪を踏みしめながら走っていく。直援は置かず、相互に支援できる距離をとっての索敵行軍であるから周りにあるのは嵐のような雪の白だけだ。
「ソーズマン──ブランドン少尉の隊が先行し過ぎていないか?」
「いえ、彼の隊にはベテランのジョンスン准尉にロベルト曹長もつけています。間違いはないと判断します」
フン……ブック大尉は戦術情報モニターから目を離さずに鼻を鳴らした。
メッケナム中尉はブランドン少尉とは別の意味でこの中隊長を苦手としている。
数々の戦場を渡り歩いた歴戦の勇士。このエリア11においてもナリタ攻略戦を始めとして主だった戦場の総てを闊歩してきた戦上手。本来ならばもっと出世しているはずの万年大尉。
その身に漂わせる“出来る男”の匂いがキライなのだ。
仕えるにせよ、配下に置くにせよ、どちらにしろもっと扱い易い人物に来て欲しいものだと思うのがメッケナム中尉という人物の人となりであった。
そんな考えだからそれなりの出世しか出来ないんだと非難されるかもしれない──いや非難されるだろうと彼は理解している。
が、「しかし」と彼は思うのだ。
それの何が悪いんだと彼は思うのだ。
能力至上主義のお国柄とはいえ、所詮貴族体制の国家である以上「家柄」というものは絶対的な価値を持つ。そのような社会ではよほどの能力──あるいはよほどの強運なしに下層階級の人間がのし上がることなど有り得ないのだ。
学者としての栄達? 学問には金がかかる。企業家としての栄達? その企業に如何にして入り込むというのか。やはり下層民が栄達する道などこの国にはないのか? 何もないところから何かを掴もうとすることなど出来ないのか?
一つだけある。
それが軍に進むという道だったのだ。
そうして手に入れた道、手に入れた中尉という地位であるから、その地位をさざ波を立てることなく保っていきたいと考えることの何が悪い、とメッケナム中尉は思う。
一兵卒から士官になり、中尉という立場にまで上り詰めるまでは紆余曲折があった。
綱渡りにも似た生か死の選択を迫られる状況も幾度となくあったし、危険の中にあっていちかばちかの賭けに討って出たことも一度や二度ではない。そうして死ぬ思いで手に入れたこれが「中尉」という成果なのだ。
それだけに彼の「成果」を危うくさせうる総てのものが彼にとっては敵だ。ブランドンもブックも、彼の精神をささくれ立たせる総ての者が彼にとっては敵なのだ。
「目標は“あの”ゼロの双璧二人に四聖剣とかいうエースパイロットの生き残りだと言うが……」
「大尉殿、1個中隊全20機での包囲殲滅戦です。要員も装備も総て万全であると確信しております。たとえ、」
「たとえ?」
「あのゼロの双璧と四聖剣であっても、ろくに補給も整備もできないまま逃げに逃げ回っての六ヶ月。もはやここに至っては年貢の納め時と言うものでしょう」
いつになく雄弁な自身の副官にブック大尉は少し驚いたようだった。
「随分自信があるようだが……黒の騎士団は強力なナイトメアを擁しているのだぞ?」
「あの赤い奴──《グレンニシキ》でありますか? しかし、あれは量産機ではありません、大尉殿。それに先のトウキョウ租界戦において《グレンニシキ》はダメージを負っております。中軸となる旗機が動作不全となっている以上、もはや彼ら残党は脅威ではないと情報部も判断しております」
「だが指揮官はゼロが重用した人物なのだろう? 確かライとか言う」
「そうです。ゼロの部下であった人物……あくまでゼロではありません、大尉殿」
フン……とまたしてもブック大尉は鼻を鳴らし、メッケナム中尉はイライラを募らせる。
言ってやろうとメッケナム中尉は意を決した。この自分は何でも知ってるつもりの万年大尉に「お前の心配性振りはうんざりだ」と……いう意味の言葉を遠まわしに言ってやろうと。
「中尉、一つ確認して──」
「大尉殿、一つ確認し──」
同時に喋りかけた二人がお互いに虚をつかれ、共に「何か?」と聞き返そうとした時、警告音が車内に鳴り響いた。
「レーダーレンジ内にナイトメアの反応感アリ。最右翼プリーストチームに対し、敵性戦力と思しき反応が接近。機種確認……機種はナイトメアフレーム《ブライ》を二機を確認」
マスケラ少尉の甲高い声が警告音と入れ替わりに彼らの鼓膜に癇に障る不快さを与えて、今為すべき事へと意識を向けさせた。
ブック大尉が頷き、マスケラ少尉はブリーフィングで決められた通りにコンソールを叩き、指示を飛ばしていく。
「タクティカルデータリンク開始。プリースト、こちらトレボー貴隊10時方向より敵性ナイトメア二機が接近中。ただちに迎撃にあたれ。トレボーより全隊へ、無線封鎖解除。右翼において交戦開始。全機、こちらトレボー。これよりタクティカルデータリンクを開始する」
中隊の配置は右翼からプリースト小隊、ソーズマン小隊、メイジ小隊、戦闘指揮車、ビショップ小隊の順だ。攻撃は最右翼のプリースト隊から受けている。
この戦闘指揮車両は簡易のEWACS(電子戦支援機)としての運用も可能だから、すぐに最新のデータが全中隊機にリンクされる。
「トレボーはこの地点に停車。……襲撃は《ブライ》だけか? 《ゲッカ》と《グレンニシキ》は出てきていない……陽動か?」
「連中のいつもの手です。別働隊をけしかけて陽動とし、指揮系統を狙う。連中はこちらを狙ってきますな」
言わずもがなのことと言った体でメッケナム中尉はブック大尉に進言した。言われるまでもないことだとブック大尉は目だけで頷く。
そうなのだ。過少戦力で多数の敵と戦おうというのだから陽動をかけて戦力を分散し、指揮系統を撃ってより各個撃破を図るのは当然のこと。
『だが何かがまだある』
しかしブック大尉の中の、歴戦の兵士の勘がそれだけではないと警鐘を鳴らしていた。
時に勘というものは固定化された理論を逸脱する鋭さを見せるものだということをブック大尉は知っていた。素養と実績によって鍛え上げられた反射神経に従い、彼は指示を躊躇った。
「ビショップとメイジを呼び戻しましょう。プリーストにはソーズマンを。連中の主力がこちらに襲撃をかけてきたところで、右翼の敵を撃退したプリーストとソーズマンの隊で挟み撃ちの形に持ち込めます!」
そう、そうなのだ。何もおかしくはない。なのになぜ納得出来ない? ブック大尉は胸に手を当てる。メッケナム中尉はそんなブック大尉に何をしているんだと言わんばかりに詰め寄るのだ。
「大尉殿、ご命令を!」
メッケナム中尉にしてみれば「何を躊躇っている」と罵倒したい気分で一杯だ。
敵に各個撃破の隙を見せずに部隊を集結させ、一気に叩くチャンスだというのに何故動かないのかと。
だがブック大尉は動けない。自分でもなぜ動けないのかがわからない。
『なんだ、この胸のざわつきは? 部隊を終結させ、戦力を糾合させるべきだ。なのになぜ踏み切れん!?』
その時、戦術情報モニター内のマーカーが一斉に動き始めた。
ブランドン少尉指揮下のソーズマン隊が戦闘中のプリースト隊の方へと最大戦速で向かい始めたのだ。
そうなれば部隊と部隊の間の距離、その均衡が破れる。『えぇい、くそっ』ブック大尉は胸の内で激しく舌打ちをした。『あの青二才の少尉めが功を焦りおって』と。
ブック大尉は“勘”が鳴らす警鐘の音をいったん胸にしまう決断をした。
「仕方ない。ビショップとメイジを呼び戻す。ソーズマン・プリーストとの距離を保ちつつ、合流して正面に進むぞ」
不安は未だに止まない。しかし、問題はないはずだとブック大尉は強引にその胸の震えを押し留める。
「索敵、全周警戒を維持しつつ前進。敵に隙を見せるなよ」
そうだ、メッケナム中尉も言っているではないか。敵は旧型のコピー機体に稼動がやっとの半壊したナイトメアしか持っていない敗残兵に過ぎない。こちらは20機もの戦力を持ち込んでいるのだ。
ましてこちらは雪上用装備も完備している。このような悪天候でも移動も戦闘もなんら問題はない。
「ビショップ小隊合流までおよそ90sec。メイジ小隊合流までおよそ180sec」
報告を無言で受け止め、ブック大尉は座りの悪いシートに身を埋める。
フィーンンンという静かな振動と共にエンジンが鳴動を再開させ、ギュルルルルといった喧しい音を立てて強化樹脂製の履帯が動き出して指揮車が移動を開始した。
「急がなくていい。急進すれば間に合うだけの距離を保っていればいい」
戦術の基本は機動性と戦力の集中。倍以上の戦力を集め、相互に支援をとれる配置も取っている。そうだ、心配することは何一つない……ブック大尉はもう一度自分に言い聞かせた。
「ビショップ小隊を肉眼で確認、合流までおよそ30sec。メイジ小隊合流までおよそ120sec」
そうだ、とブック大尉は“心配すべきこと”を一つ思いついた。
考慮しなければならないとしたら──「せいぜい移動を慎重にせねばならぬことくらいだな」ブック大尉は誰にともなく呟く。たいしたことのない積雪量だとはいえ、山の機嫌はいつ変化するかわからないのだからと。

山、

雪、

それに斜面。

──斜面。

「ビショップ小隊を肉眼で確認。メイジ小隊合流までおよそ100sec」
マスケラ少尉が淡々と報告を行い、
メッケナム中尉が鷹揚に頷き、
ブック大尉が目を見開いて座席から腰を浮かせ、叫んだ。
「ぜ、全速でこの戦域から離脱するんだ!!」
車内の全員がブック大尉を振り返る。
そして次の瞬間、微かな地鳴りがスピーカーを通して彼らの耳に届き、やがて……やがて……。


「な、何が起きたんだ? 各機状況確認! ソーズマン1、ブランドン少尉! トレボーはなんと?」
ジョンスン准尉の呼びかけにようやくハッとしたブランドン少尉は自分が操縦桿から手を離して頭を抱えていることに気が付いた。
「わ、わかっている!」
それが答えになっていないことは承知の上だったが、怯えを気取られぬためにはそう言う他になかったブランドン少尉だ。
襲い掛かってきたのは衝撃。音。真っ白に閉ざされた視界。機体各部の反応が鈍いのは関節に想定以上の負荷を受けたせいなのだが、パニックを起こしている彼がそれに気付く事はない。
「トレボー、こちらソーズマン1。トレボー状況を知らせ。トレボー! ソーズマンだ! マスケラ少尉! 応答をしろ!!」
返事はない。無線はノイズを撒き散らすばかりだ。ドンっと肘掛けを怒りにまかせて叩く。
「いけませんね、データリンクも切れている」
それはロベルト曹長の声だ。その言葉にようやくブランドン少尉もトレボー──戦闘指揮車とのデータリンクが途切れていることに気が付いた。
失態だ──まず彼の胸に浮かんだのはその二文字だった。
自分が気が付かなかったことを部下に……平民出身の下士官などから指摘されるなど屈辱だ! 次に浮かんだのはその二文字が象徴する怒りだ。
今の地響きと巨大な振動は一体なんだったのだ。モニターが白一色で何も写っていないのはなんでだ!
「おそらく雪崩が起きたのではないか。この分だとトレボーはそれに……」
「雪崩ですって? このタイミングでですか? それは……向こうにとってだけ都合の良すぎる話ですね」
「そう、その通りだ。タイミングが良すぎる話だ。そんなことはありえない。だが──」
ジョンスン准尉が一瞬口篭り、そして言い放った。
「ロベルト、君もいただろう? ナリタ攻略戦に」
──ナリタ攻略戦。それはエリア11駐留ブリタニア軍にとって口にすることが憚られる、汚点の一つと言っていい戦いだ。
ナリタ連山要塞を基地とする日本解放戦線の掃討を企図した大作戦。その最中、終始優勢に戦いを進めていたブリタニア軍を突如土石流が襲った。
戦力の過半を喪失させたその土石流を起こしたのは黒の騎士団──ゼロの策であったと言われている。
「あれをこの山で再現したとおっしゃるのですか、准尉殿」
「そうとしか思えん話だ。だが有り得るだろう、相手はゼロの腹心だった男なのだからな。クソッ、狐は二度と同じ罠にはかからないとは言うが、我々は狐のように賢くはなかったと言うことか。とにかく──」
「貴様ら、いつまでくっちゃべっている!」
ジョンスン准尉を遮るようにブランドン少尉が割って入る。
「とにかくこうしていても仕方ないんだ。早くトレボーの救助に向かわなければ」
だが今度はそのジョンスン准尉がブランドン少尉の言葉に割って入った。
「おそらく無駄でしょう。それよりは交戦中のプリーストと合流すべきです。でなくては、我々は各個撃破の憂き目にあいます」
「なん……だと……」
「この雪崩は恐らく──いえ、間違いなく黒の騎士団残党の策であるとと判断します。であれば、彼奴らは確実にトレボーを潰しているでしょう。それならば次の目標は我々です!」
部下の断定的な口調に「しかしな……」とブランドン少尉は異を口にしようとした。
彼らのコックピット内に甲高い警告音が鳴り響いたのはその時だ。
「敵襲!」という悲鳴にも似た部下のパイロットに瞬間うろたえたブランドン少尉機を押し退けるようにして、ジョンスン准尉の《サザーランド》が前に出る。
「敵は上だ! 迎撃!」
カメラは白を写すばかりで用を足さない。ジョンスン達はすでにモニターを切り替えていた。
ファクトスフィア──統合情報センサーが捉えた熱源や音といったデータをコンピューターが複合的にまとめ、判断してモニターに表示する。
画質は良くないが──
「捉えきれる!」
ジョンスン准尉は自機が手に持つアサルトライフルをセンサーが捉えた敵機に向けた。ロックオン。同時に識別機能が働いて敵機の正体を報せる。
「《グレン》か!」
イレブンが開発した第七世代相当という触れ込みのナイトメアフレーム。嘘か真か先のトウキョウ決戦では十数機ものサザーランドやグロースターを屠ったという話だが、ブリタニア軍の中ではその報告に懐疑的な者も多い。
そうでない少数の者がどういう部類の兵かと言うと、実際に黒の騎士団との交戦経験のある者たちであった。ジョンスン准尉は後者の部類にあたる。
操縦桿をグっと握り締め、親指の位置にあたるトラックボールを小刻みに操作する。油断は出来ない。恐ろしい……そう、恐るべき敵なのだと経験が彼の脳裏に語りかける。
「だが《グレン》ならトウキョウ決戦でダメージを負ったはずだ!」
ならば勝てる方策はあるのだとジョンスン准尉は吠えた。
弾幕を張るようにアサルトライフルを一斉射するが、《紅蓮弐式》は危なげなく回避する。しかし、その動きは幾度となく行ったシュミレーション上の《紅蓮弐式》の動きより緩慢なように思えた。
やはりやれる。それがジョンスン准尉の《紅蓮弐式》に感じた印象だった。
こちらに向かって来たのが《グレン》ならプリーストに向かったのは《ゲッカ》と《ブライ》だろうと彼は判断する。
それならばプリーストはもってくれる。そちらを指揮しているのはベテランのバッジェス少尉の隊だからだ。
「ロベルト、ボディー、《グレン》を囲い込むぞ、奴には例の腕はもうない。“フォーメーション17”だ。メッチェ、距離を取って支援しろ」
もはやブランドン──お飾りの──小隊長のことはジョンスン准尉の頭から消えていた。彼は平民からの叩き上げの熟練下士官であったから、戦いが目の前にあれば、それに必要な総て以外のことが頭の中から消える。そうだ、勝つために必要であるから。
ジョンスン准尉は確信を持って叫んだ。フォーメーションを崩さなければ必殺の“輻射波動機構”を失っている《紅蓮弐式》に勝機はないはずだ、と。
「いくら腕が立つと言えど所詮はゲリラに過ぎん。やれっ!」
1対多数の戦いとはいえジョンスン准尉には手を抜くつもりはない。どんな優勢な立場であっても気を抜けば殺される。それが戦場なのだから。
だから彼は自機とボディー機とで左右に別れ、紅蓮弐式を十字砲火に捉えようと動いた。後衛担当のメッチェ機はロケットランチャーの代わりに装備したロングバレルのライフルで牽制の援護射撃を行う。
そこを敵から見て左舷からロベルト機が肉薄する。このチームでの必勝パターンだ。
モニターに映し出されたCGの《グレン》に向かってアサルトライフルの銃口が火を噴く。5発に1発の割合で混入された曳光弾の軌跡は当然ながら吹雪に阻まれて見えない。
しかしモニターにはCGの《グレン》へと向かう銃弾が補正されたCGとして表示されていて、その軌跡をはっきりと確認することが出来た。
ジョンスンたちにとって、まったくもって恐るべき《紅蓮弐式》と言うべきか。その動きはやはり緩慢な印象を改めさせはしないものの、赤い機体は小刻みに回避運動を行って致命弾を避け続けている。
「化物め……」
思わずクチをついて出る。が、この十字砲火と牽制の射撃は《紅蓮弐式》の機動を阻害するためのものだ。直撃弾を与えて撃破するのが目的ではない。
本命は彼奴の死角となる左弦から強襲をかけるロベルト機──!
火線を途切れさせることなくジョンスン准尉は撃ち続けていた。弾を撃ちつくしても弾倉交換時には互いにフォロー出来るようにボディーとタイミングを合わせている。
その最中、メッチェの放った何射目かのライフル弾がグレンを捉えてその体勢を大きく崩した。
好機!
一気に前進してより濃密な弾幕でグレンを囲い込む。しかしこれはフェイクだ。ロベルト機の機動を隠す為の陽動なのだ。
よしんば気付いたとしても、この濃密な近距離からの十字砲火の中では避けられまい!
額の汗を拭う暇も惜しみ、「上手くやれよ」そう一人ごちてジョンスン准尉はその時を待った。ロベルト機には“とっておき”を持たせているのだから。
通常の《サザーランド》と違い、黒の騎士団残党の追撃を主任務とするこの部隊には特別に先行生産分のMVSが支給されている。
MVS──メーザーバイブレーションソードと呼ばれるこの斬撃兵装は刃と重さとで目標を叩き切る兵装ではない。
刀身にマイクロ波を増幅・発振させた高周波振動を起こし、触れる物の総てをバターの様に自在に切り裂くという正しく“剣”そのものといった武器なのだ。大電力を要するため、《サザーランド》では極短時間しか使用することが適わない、使いどころの難しい兵装でもある。
しかし、例え紅蓮弐式といえども、このMVSをもってすれば……。
モニターにロベルト機の表示が現れる。《紅蓮弐式》の左斜め後方。絶好の位置。
ジョンスン准尉たちはロベルト機の強襲を邪魔せぬ様に火線を逸らした。それと知らねば分からぬくらいの絶妙な角度でだ。
そして刹那、無残に切り伏せられる《紅蓮弐式》を幻視した彼らは次の瞬間、ゆらと動いた《紅蓮弐式》と一瞬で真っ赤に灼熱して弾け飛ぶロベルト軍曹の《サザーランド》を見た。
癇に障るBEEP音が鳴る。瞬間何が起こったのか分からなかったジョンスン准尉は呆けた目をモニターの中の表示に向けた。
《ソーズマン3 撃墜》
長年チームを組んできた相棒の、それが最期を示すワードだった。
「……一瞬で機体が弾け飛んだ。輻射波動だと言うのか……?」
半年前のトウキョウ決戦の際、《グレン》の切り札である輻射波動機構が内蔵されている右腕は特派の嚮導KMF《ランスロット》によって破壊されたはずだった。
修復された?
崩壊した黒の騎士団にそんな余裕があるとでも?
予備パーツがあった?
撤退時に予備パーツは総て破棄されたとの情報が吸い出されている。
ではこれは。これはなんだ?!
高周波を短いサイクルで対象物に直接照射し、発生した膨大な熱量で対象に爆発・膨張を引き起こして瞬時に破壊する《マイクロ波誘導加熱ハイブリッドシステム》こと《輻射波動機構》、《紅蓮弐式》の文字通りの必殺武器。
「なぜそれがある!?」
叫ぶジョンスン准尉が反応するよりも早く《紅蓮弐式》はその身を捻って高く跳躍した。先ほどまでの緩慢なマニューバが嘘のような俊敏な動きであった。
《紅蓮弐式》の赤いボディが宙を舞う。 
なぜという彼らの問いに答えは差し出されなかった。答えは彼ら自身の目によって得られた。
その時、ジョンスン准尉はあるはずのないものを見たのだ。
《紅蓮弐式》が半年前に失ったはずの右腕、捉えたモノに等しく平等なる“死”与える右腕がそこに存在するのを。


その部屋はだいぶ明るかった。あのストーブのない幹部用の会議室である。その室内のデスクにライは幹部らしく深く腰掛けたまま正面に立つ年長の下士官の報告を受けていた。
「自在戦闘装甲騎隊の撃墜戦果は総計8機、拿捕は2機。捕虜の拘束2名。うち1名は士官でありました。我が方の損害は機体、人員共に0です!」
下士官の報告した内容はすでに聞き知っていることではあったが、指揮官としては“報告を受ける”ことも仕事のうちなのだ。
数度頷いてみせてからご苦労と答えて下士官を下がらせるとライは座ったまま椅子を巡らせ窓から外を覗いた。
吹雪はすでにやんでいる。雲も晴れ、陽の光さえ差し込んでいる。
良好な視界のその先には《紅蓮弐式》と卜部の《月下》そして数機の《無頼》が駐機していて、その周りで黒の騎士団の団員たちが忙しそうに動いている。
久しぶりの勝ち戦に皆が皆沸いているようだった。
「一個小隊そこそこの戦力で中隊規模の敵を。それも追撃専任部隊を殲滅させたのだからな。そりゃあ士気も上がるってものさ」
扉を開けて入ってきた卜部はパイロットスーツのままだった。
「ご苦労様でした卜部さん。撃墜3、さすがですね」
よせよ、と苦笑して卜部は部屋の隅に立てかけてあったパイプ椅子を引き摺ってきて座り込む。
「事前に聞いていたとはいえ、まさかナリタのあの地滑りを再現して敵の戦力の過半を奪うとはな……今となってはあの時の事を怒る気にもならん。感心するよ」
「山と雪というこの土地の環境に紅蓮。これが揃ってなければ出来ない策です。まさに【柳の下の泥鰌】ですからね、巡りあわせが良かっただけですよ」
そのライの言い様に「ご謙遜だな」と笑って彼もまた窓の外を覗いた。
彼の視線の先にあるのも《紅蓮弐式》と自身の《月下》だ。
「君はよかったのか?」
「これが最良の選択ですよ」
そう言ってライも再び《紅蓮弐式》たちの方を見る。破壊され脱落したはずの《紅蓮弐式》の右舷に“右腕”が付いている。
それはライの搭乗機《月下・先行生産機》に装備されていた輻射波動機構──甲壱型腕だ。
「今の僕達の最大戦力はやはりカレンと卜部さんですよ。だったら僕がするべき事はお二人が最大限戦えるようにすることです」
「その為には自分の《月下》をパーツ取りの為に潰してもいい、かい?」
「充分に実力を発揮できない壊れかけの機体3機よりは完全稼動状態の2機の方が戦力として信頼できますからね」
ライはどうということもなさそうに言い、ますます卜部は苦笑を消せなくなってしまう。
そう思いはしてもそれを思い切れる者などそうはいないのだ。
卜部にとってライの提案は驚くべきものだった。彼ならばそれを言うのではないかと予想していても、いざそれを打ち明けられれば面食らいもする。
自分の愛機を潰して、《紅蓮弐式》と《月下・卜部機》の補修用パーツとする、などということは。
「機体に愛着はあります。でも、それよりも優先することがあるのなら決断します。僕には夢がありますから」
夢──ゼロを取り戻すこと。日本を取り返すこと。
『仮面のゼロ、総帥ゼロ、そしてルルーシュ・ランペルージ、か』
卜部にはゼロの正体が異能の力を手にした学生だと言われてもピンとこない。だからどうしたってやつだ。
最初ライとカレンから打ち明けられたときも、それは置いておくとしようと考えた。後のことはともかくとしてしばらくは彼らと同行しようと決めた。解放戦線時代からの部下もいたし、騎士団に参入してからの部下もいた。とりあえずは彼らを養わなければならなかったからだ。
つまり、必要にかられたからライたちと同行することにした。それ以上でもそれ以下でもなかったのだ。
──今は?
そうだ、以前は以前、今は今だ。
今は──少し違う。
ゼロに対する不信感を隠そうとしない千葉や朝比奈などはまた違う考えに至るだろうが……と卜部は思う。至るだろうが、自分は彼らではない。
卜部自身はゼロに対して強く思うことはない、その正体に関しても。
が──この青年、ライが信じるゼロならば信じてみてもいいと思うのだ。
『昔に比べて俺も変わったのかな』
望んでいたエリートコースから外され、金沢の駐屯地に送られたころの自分を思い出す。
あの頃はなにもかもが嫌でたまらなくて、目に見える者の総てが敵であるかのように思えたものだ。信用とか信頼とかそんな言葉は有り得なかった。
だけど、
『人は変わっていくもの、だからな』
昨日ライに向かって笑った言葉を卜部はそのまま自分に返していた。
そのように笑っていた二人の和やかな時間は唐突に途切れた。
「ライ! あ、卜部さんもいたのね。ちょうど良かった。 ライ……あいつと連絡がついたわ!」
部屋に飛び込むように入ってきて一気にまくしたてるカレンをライは思わず腰を浮かして迎える。「トウキョウからかい」聞き返すライの語尾は震えていた。
それは待ち望んでいた一報なのだ。
「そうよ。先行したC.C.たちからの連絡……《坊やは楽園に舞い戻った》だ、そうよ」
ドサっと投げ出すように深く腰を下ろし、ライは「そうか」と呟いた。一度目は放心したように微かな声で。そうしてもう一度、
「そうか──!」
強く、噛みしめるように呟いた。
それは希望を見出した人間の強い言葉だった。
「取り戻しに行くんだな」
卜部の問いかけにライは強く頷く。
「取り返します。奪われた物の何もかもを」
ライの心中はその言葉程単純なもので埋め尽くされてはいない。
目的を果たすための戦略はどう立てていくか、戦術はどうする、人員は、装備は、資金は……なにもかもがまだ手詰まりのままだ。
しかし、いまここに希望が生まれた。
生きているかどうかさえわからない、あやふやなままの希望ではない。生きているという確かな希望が生まれたのだ。
『ルルーシュ、もうじき君を取り戻しに行く』
ライの胸に改めて強い誓いの炎が灯った。
手詰まりであってもその歩みを止めることはない。
これまでの戦いが、死者が、総ての犠牲が無駄ではなかったことを確かめるために止まることなど許されないのだ。
「行くわ。日本を取り返すために」
カレンが吠える。
「行くさ。それがどんな戦場であっても、四聖剣は虚名ではないのだからな」
卜部もまた頷いた。


この六ヵ月後、トウキョウ租界にて

黒の騎士団残党によるバベルタワー襲撃事件が起こる

そしてライたちは再び、自ら陰謀と戦火の只中に飛び込み行く

幾百の怨嗟

幾千の悲憤

彼らは再びそれを目にすることになる



皇歴2018年、初夏。
ライたちの冬はついに終わりを告げようとしていた。

《コードギアス反逆のルルーシュLOSTCOLORSR2 へ》


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.柳の下の泥鰌:幸運なことがあったからといって、その後もまた幸運があるとは限らないという故事。【狐は二度と同じ罠にはかからない(A fox is not taken twice in the same snare.)】は英語圏における同じ意味の故事。

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[ 2011/09/15 19:27 ] [ 編集 ]
↑コメント返信
こちらこそはじめまして!
拙作に貴方がワクワクを感じさせることが出来たのだとしたら、HANA子にとってなによりの喜びですの!
実は……以前のTURN19のお話とこのお話はつながっていたりしますw
HANA子なりのロスカラR2のお話は頭の中には入っているんですが……時間も根気もいかんともはやです。
とはいえ、これからも当ブログのメインコンテンツとしてロスカラは書いていきますので、どうぞ今後ともよろしくですよ~^^
[ 2011/09/16 21:18 ] [ 編集 ]
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Author:HANA子
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ついでに言わせてもらえば、
メビウス1はうちの婿

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