「わたしはれんげ、日ノ崎れんげ。お兄ちゃん、貴方のお名前は?」
呼びかける声にハッとして顔をあげる。
しばらくの間、意識が飛んでいたようだった。
あまりの寒さに気が付いてブルっと震える。暖かいとはいえ2月は2月。夕暮れともなればそれは冷える。
俺はコンクリートの壁を背中に座り込んでいた。
「おにいちゃん?」
声に呼ばれて視線を──動かすまでもなかった。声の主はすぐ目の前にいたからだ。
「君は──」
声の主は幼い女の子だった。
赤いカチューシャに短めの髪がよく似合う、目の大きな可愛い女の子。
下校中なのだろう、ランドセルをからっている。そのランドセルも赤い色だ。
「名前・・・・・・」
れんげと名乗った女の子は催促するように言う。
名前──俺の名前……、そうだ俺の名前は安田。安田だ。そして星桜大学の4年生で、未だに就活中で……そして──そして、なんだ?
「餌」 その1